人事の人見

人事の人見10話(最終回前編)

人事の人見10話(最終回前編)あらすじネタバレ

日の出鉛筆の社長、小笠原(小野武彦)は、地元商工会の講演で、時代にそぐわない発言をしてしまいました。

「我々の時代はサービス残業も休日返上もこんなもん当たり前ですよ。今の社員達は自己犠牲の精神が分かってない!ワンフォーオールこれです」

この時の動画がSNSで拡散され、大炎上に発展してしまいました。

「ちょ森谷ちゃんこれ見てやばいでしょ」

「どうしたんすか」

後から入ってきた人見は、今日子、堀、森谷が社長の会見の動画で不味い顔をしているところに遭遇しました。

「社長の失言とうとう見つかっちゃった」

「動画で押さえられて現在大炎上中」

「時間の問題だとは思ってましたけど」とウジン(ヘイテツ)。

「自業自得だな」

「これで困るのは社長だけじゃなくないすか。会社全体がそのイメージで見られかねないじゃないすか」と森谷。

「そういう考え方の人だから」

「古い人だな」

そんななか、屋上で暫く物思いにふけっていた小笠原が中へ戻ろうとすると、出入り口に鍵を掛けられ、締め出されてしまいました。

「どいつもこいつも…あれ?嘘だろ。おい、誰かいないのか!まだ屋上にいるんだよ。誰かいないのか、誰もいないのか。うわぁ!お前は」

屋上のベンチで休んでいた人見(松田元太)も、助けを呼ぶ小笠原の声に驚いて飛び上がり、2人は助けを待つことにします。

「社長なにやってんすか」

「開かねぇんだよ中に鍵を掛けられて。携帯貸してくれ」

「充電ない。おがさんなにしてんすか?」

携帯を充電しながら、人見は持ち前のコミュニケーション力で小笠原との距離を縮めます。

「おがさん」

「おがさんってなんだ?」

「小笠原さんだから」

「なにしてたんすか?」

「ちょっと考え事をね。殆ど君らのせいだけどな」

「大変すね社長も」

「ラグビーやったじゃないすか」

「タグラグビーだけどな」

「でもなんでみんなボール持って走ってたんすか?」

「そんなことも知らずにプレイしてたのか?」

人見の常識のなさに驚く、小笠原。

「はい。前に投げちゃえばいいのにって」

「ラグビーっていうのは後ろか横にしかパス出来ないんだよ。だから泥臭くボールを自分の体で運ぶしかない。そしてそれはチームに対する自己犠牲、ワンフォーオールの精神なんだよ」

「かっけぇ。ラグビーのかっこいいやつないんすか。

「ノーサイドとか?ノーサイドは試合終了ってことなんだよ。こっちサイドと向こうサイド、つまり、試合が終われば敵味方もない」

「ノーサイド、ラグビー深ぇ!」

素直で人懐こい人見に、小笠原は笑顔を見せるのでした。

その間に少しだけ距離を縮めた2人。

その頃、平田は里井常務(小日向文世)と小笠原の件が週刊誌で取り上げられ、批判されたことについて話し合います。

「恐らく先日のリーブスジャパンのインタビューの反動と言いますか、地元の商工会向けだから本音が出てしまったんだと思います。」

「本音でこれが出てしまうというのが大問題です。」

「ですね」

「社長がこのままではこの会社は持ちません」

その頃の人見と小笠原はベンチでくつろぎながら話し合います。

「この会社はどうしちまったんだ。社員が何を考えているのかわからない」

「色々聞かなきゃ分かんないじゃないすか。人によって会社にこうしてほしいのも違うかもしれないす」

「さっぱりわからん。私は社員とコミュニケーションとってるよ。ラガーシャツ配った」

「あれじゃあ社員のことわかんないすよ。あれラガーシャツとおがっさんの考えを配ってただけですし、おがさんを知ってるからみんな何も言わないんすよ。正体言わずに近づかないと、それで、こっそりみんなの話を聞けばいいんじゃないすか」

「正体隠して潜入するってことか」

人見の助言を元に、翌日、清掃スタッフに変装して、社内に潜入する、小笠原。

「この仮の姿で、我が社に蔓延る悪を成敗してくれるわ!」

「悪を成敗って」

気合満々の小笠原に、先行きが心配な人見。

彼は張り切って自分と同じ方向を向いていない社員を見つけ出そうとします。

「海外に飛ばしてやる」

「なんなんだあいつは」

「おはよう。人見君ねぇこれ読んだ?うちの社長の記事。老害に時代錯誤。言われて当然だけど。これがうちのトップだって思うと哀しくなるよね」

真野は人見から、会見の動画を見せられました。

「おがさん社員の正直な声分かったじゃないすか」

「いや、わかりたかったのはああいう声じゃないんだよ。今度、なめたこと言う奴は海外に飛ばしてやる」

「それじゃあ潜入して本音を聞く意味ないじゃないですか」

「だから言ったろ?悪を成敗してやる」

次に須永は小笠原が屋上に閉じ込められたことを笑いものにしていました。

「聞いたか?社長、屋上に閉じ込められた事件。もう傑作だよな。」

「そんなことより須永さん」

「あはははは!なにがみっともないって恥ずかしくて秘書室と甲斐警備会社に、相当口止めしたらしいからな。もう器が小さいんだよ。ワンフォーオール、屋上でオール。あ、もしもし、陽菜?ん?どうした?」

その後、須永は娘に電話をしました。

「ジャカルタ行きだな」

「いやいやいや」

他の部署でも小笠原の問題発言は社員の仕事に影響を受けていました。

「社長のあの発言のせいでまた商談こけたよ」

「またですか最悪だな」

「何してくれるですかねあの人」

「信じられない」

「社長の尻拭いで大変だよ。もう最悪」

「お前、社長のあれ担当してるのか。だよな俺だったら絶対担当したくないと思ったもん」

「仕事だからって言い聞かせてるけどさ、社長の失言の言い訳を考えるのが本当に広報の仕事なのかって虚しくなるわ」

「そうなんだよな。俺は直接は関係ないって言ったけど、友達とかにあの人が社長の矢場会社だって言われると考えさせられる」

人見は社員の声を聞いて会社の屋上庭園で落ち込む小笠原をフォローします。

「おがっさん、めっちゃ落ち込んでるじゃないすか」

「なんなんだよ彼奴ら。全く、人の気も知らないで好き勝手なこと言いやがって」

「正直な声聞きたいって言ったのおがさんじゃないすか」

「昔は良かった。なにがいけなったのか」

小笠原はかつてを振り返りました。

「遅くまで悪いね」

「みんなお疲れ」

「小笠原社長の為ならこれくらい大したことないです」

「その代わり終わったら飲みお願いします」

「よしみんなで今日は飲みに行くか」

時代の変化を感じ、納得いかない小笠原。

常務の里井(小日向文世)は、役員会議を終え、目の前の小笠原に忠告します。

「先月の社長の公演会での件ですが…」

「まだその話か」

「SNSで議論を呼んでいるということで、社内でも同様の声が大きくなっております。ついては、臨時の会社ミーティングで社長自身が社員に説明をしていただけますでしょうか。」

「私に謝罪しろっていうのか」

「どういう意図の発言だったのか社長の口から説明いただき、社員のみんなを安心させる必要があるのかと」

ところが、小笠原は、用意された会社ミーティングの場に姿を見せることはありませんでした。

真野や堀が探すものの、結局、終了して、大混乱を招くのでした。

落胆した里井は小笠原に厳しく警告します。

「ここにいらっしゃったんですか。社長、どうして会議に出席されなかったのですか?社員に説明が必要だと申し上げたはずです。改めて説明会をお願いします。そこで説明と発言の撤回をお願いします。」

「断る。私は何も間違ったことを言ってはいない」

「そして今後二度と昔の極端な働き方を美化するような発言はなさらないでください。社員の人権を軽んじるような発言も同様です。」

「里井、一体なんの権利があって私の発言を縛ろうっていうんだ」

「会社の為です。小笠原社長の言動が日の出鉛筆のイメージを損なているのは事実です。」

「なにがイメージだ」

「それ以上やめていただかないと、日の出鉛筆の社長を…」

「私に辞めろっていうのか」

「考えを改めていただきたいと言ってるんです」

「冗談じゃない。一体お前は何様のつもりだ」

「会社を憂う日の出鉛筆の一員として申し上げております」

「お前なんかクビだ。そんなに私が気に入らないならお前が辞めればいいだろ」

「そうやってまた切り捨てるおつもりですか?耳の痛いことを言う人間を、会社の為に意見した人間をまた辞めさせるおつもりですか」

「次の取締役会で解任の決議をすることになる。それまでは自宅待機だ。」

里井には、かつての会社の古い体質を変える為に、社長に物申して辞めていった、同僚、堂前から託された思いがありました。

「里井、これから会社変えよう」

里井の解雇はあっという間に日の出鉛筆の人事部の話題となりました。

「里井常務がクビ」

「まじかよ」

「ちょっと声大きい」

「だいぶ、衝撃の事実」

「ちょっと待てそれ本当なのか?」

「社長がクビだって言ってたのは確実みたい」

「全社会議もドタキャンするし」

「やばいあの社長」

「どういう理由ですか?常務取締役解任って相当な大事じゃないですか」

真野は堀に、里井の危機的状況について何か知っていないか、出来ることはないか問いかけました。

「理由までは分からないけど2人で話し込んで結構言い合っていたのは聞いた」

「誰についていけばいいんだ」

「あれだけ会社で話し合って」

里井の落ち込み具合を察し、人見は里井常務の部屋を訪ねてを追及します。

「さとさん、首って本当ですか?」

「すごい単刀直入に聞くね」

「なんか社長とバトったって聞いて」

「今度こそ社長に変わってもらわなきゃと思って。強く進言したんだけど聞き入れてもらえなかったよ」

「それで首って」

「須永さんも持田さんも、クビにならなかったじゃないすか」

「彼らと違って勘違いでもないし単なるミスでもないからね。それにこうやって社長に物申して着られるのは、前例がある。前に堂前のこと話したかな?」

「あーなんか自由すぎて会社に馴染めなかった人」

「あいつも10年前、社長に物申して辞めることになったんだ。お前は会社に残って会社を変えてくれ、困ってる社員を助けてほしいって。彼の分までこの会社を働きやすい会社にする、もっと自由でもっと関わる人を大切にする会社にする。それが僕の目標になったんだけど、ここまでみたいだ」

「里さんどうにかできないすか」

「あの社長変わらないから。人見君を誘っておきながら、先にいなくなるのが心残りです」

「さとさん」

「後のことは頼みます」

「うちの若手社員を中心に退職の希望とか相談が急増してます。当然社長の失言とか説明しなかった件ですよ。」

「ですよねー」

「それに関してはこっちは何も言いようがないので人事の方で引き留めてもらいませんか」

「わかりました」

平田は他の部署から、新人に意見を聞いてもらう事を頼みます。

「説明会ドタキャンありえないじゃないすか。やっぱりあの社長の下じゃやっていけません」

「まぁまぁあの社長の発言が全体ではないから」

若手社員をフォローする須永とウジン、森谷は対応に困り果てていました。

「社長の一存ですべてひっくりかえるじゃないですか。ついていけない」

「説明も撤回する気ないってことはあれが本音ってことじゃないですか」

「そうとも言えないと思うんですよね」

堀と須永は若手達が小笠原の失言で、辞めていくことに不安を覚えていました。

「止まんないぞこれ」

「動かぬ証拠が流れちゃったからね」

「おかしいですよ。これだけ会社に迷惑をかけた社長がだんまりなんて」

真野は、今回の件で納得いきません。

「そんなので許すんですか?」

「あの社長だからな」

「社長にも噛みつくきか?」

「堀さん社長の弱みなにか知ってませんか?」

「あの社長の場合、ほとんど全部が失言みたいなもんだから、なんかもう1個やらかしたくらいじゃ聞かないと思うんだよね。」

そこで、相沢今日子が社長の家に大事にしている秘宝がある事を口にします。

「じゃああれは?社長の自宅に眠る秘宝。いやなんかね、前の部署の先輩の同期が友達に聞いたらしいんだけど、社長の家には権力の源?みたいな宝物があって、でもそれは人に渡ったら社長が破滅しちゃうっていう。そういうお宝が社長の家には眠ってるっていう話」

「なんすかその漠然とした話」

「曖昧すぎるしフィクションすぎる」

「ロードオブザリングじゃないんだから」

「いやほんとにあるかも。秘書時代に、社長が昔の仲間と集まって、社長がべろべろに酔っ払っていた時、あれが世に出たらやばい物があるって。書斎のデスクにあるって聞いた気がする。

「その自宅にあるやばい物をどうやって手に入れるかですよね。近々、社長の家に招待される人とか」

そこへ遅れて入って来た人見は、社長の家の家宝を持って帰るように人事部のみんなに頼まれました。

「え?おがさんの家、近々行きます。え、盗むってことすか?」

「盗むって言うとちょっと印象悪いんだけど、社長の自宅に招かれてるんでしょ」

「招かれては今すけど、おがさん色々あって落ち込んでたから励ましたら飲み会やるから来いって」

「いつのまに社長とそんな関係に?」

「羨ましい」

「その物を持って帰るってことすか」

「人見君しかいないの」

「社長と交渉するためにね」

「私達だって人見君に泥棒なんてさせたくないよ。だけどこのまま里井常務が黙って解任されるところを見てたくはない。常務を救えるのは人見君しかいないの」

人事部一同は、里井常務の解任を阻止するために動き出します。

「そうすよね、分かりました」

人見は小笠原社長の家のパーティーに招かれました。

堀から、社長の車のキーには難の鍵か分からないものが書斎のデスクの引き出しにあるとアドバイスを思い出します。

「それ欲しいの?」

「シャインマスカットくんのシール」

鍵に手を伸ばそうとした時、小笠原の孫、颯太に声を掛けられ、誤魔化した人見。

「おい、人見って言ったか。台所、奥さんとか志保さん手伝えよ。お前が一番若いんだから」

人見は小笠原家にお世話になっている社員、牛島に声を掛けられました。

牛島はコワモテで、インパクトのある風貌と高圧的なオーラで、人見は怯みます。

「済みません。なにかお手伝いできることあります?いやそりゃ手伝わないとですし」

「ごめんね牛島君が。言い方きついけど、悪い人じゃないから。最近社長と仲良くしてるでしょ。社長のこと好きすぎるから急に呼ばれた人見君に嫉妬してるんでしょ」

人見に気さくに接するのは猪俣志保(佐藤乃莉)。

彼女もまた、小笠原に面倒を見てもらい、助けられた一人です。

「嫉妬すか。まぁ仲良くっていうか、一緒に屋上に締め出されて以来、ちょっとだけ。ていうか、お父さんのこと社長って言うんすか」

「私、、娘じゃないよ。」

「俺てっきり娘さんとかお孫さんなのかと」

「それくらいお世話になってるけどね。父が小笠原さんの部下で、だいぶお世話になって。2人が第一営業部でバリバリやっていた時からの縁で。ずっと面倒見てもらってたけどね、父が突然亡くなっちゃってね。うち父子家庭だから、どうしようかなって時に生活や進路のことも、冠婚葬祭も小笠原さんが面倒見てくれて。なんかあったら助けてくれて。中3からはもう一人のお父さん。颯太にとっては生まれた時からおじいちゃん」

小笠原がかつての亡き父の部下だった縁から、信頼関係がある、志保。

志保は父亡き後、小笠原に生活をサポートしてもらったことがありました。

今は、彼女の一人息子、颯太も家族のように大切にしてもらっています。

「良い人すね」

「古い人だけどね」

人見は彼を慕う社員から、小笠原が日の出鉛筆を立ち上げるまでの功績と歩みを話しているのを見守りながら、彼の努力を知りました。

「うちの先代、親父は根っからの職人気質だったから、売るのが下手で下手で。、まぁおまけに丁度、シャープペンシルが普及する頃だったから、散々なもんだったよ。大喧嘩になって必死になって説得した。文房具全般を売る事にして、まず営業部門を第一に立て直した。ラグビー部の後輩、大量に入れて、朝から晩まで作戦練って、走り回って残業してもうがむしゃらに文房具売ってた。なにしろ体力に自身あるし、昔はガッツのある社員が多かった。あの頃の社員は紛れもなく家族のようなものだよ。まぁそういうわけで日の出鉛筆は我が人生で在ります。素晴らしい」

人見はこっそりと書斎のデスクの引き出しを開けようとしました。

「鍵はこれだぞなにしてるんだ」

「あ、トイレ探してて」

「トイレ向こうだろ。一目盗んで鍵持ちだして、社長の家でなにするつもりだって聞いてるんだ。なんだそのかばんはどういうつもりだ」

小笠原を一番信頼している、牛島は人見の行動を怪しみます。

「社長にちょっとしたプレゼントを。あれすよ。ちょっとしたサプライズで置いていくっていう」

「お前、同じこと考えてたのか。まさか同じこと考えてた人はいるとは。社長の誕生日近いしな。会社で堂々とお渡しできないし、あの人、堂々と渡すと照れくさくなるから。何にしたんだ?」

「俺はラグビーゴールポスト柄の文鎮。オーダーメイドで作らせたんだ」

「俺はですねあのこれっす」

「これは?」

「世界中旅していた時に見つけたナイジェリアの首飾りす。プレゼントぽくないすけど、社長興味持ってて」

「裸でか?」

「おしゃれかなって。どこかに隠しておいて、これはっていうサプライズす」

ここで、人見に心を開いた牛島は、自分と小笠原との歩みを話聞かせました。

「お前、しゃれてるな。里井派だと思ってた。里井常務が反旗を翻しただろ?里井から送り込まれたスパイかと思った。里井常務は今や敵だけどさ、人について行こうとする気持ちわかるよ。俺も社長に拾ってもらってたから。社長の40個くらい下の後輩。大学でラグビーやってた。スポーツ推薦だったけど、ケガして続けられなくなって。大学も中退して目標もなく、生活の為にバイトして、偶々、日の出鉛筆の社屋の担当になったら、ある日突然、声掛けられたんだ。テイトク大学のフルバックがこんなところでなにしてるんだって。それからなにかと目を掛けてくれて、OBとしてほっとけなかったんだろうな。うちに来いって、社員にしてくれたんだ。学歴も経歴も何もない俺を。俺はその恩に答えなきゃいけない。」

「やっぱいい人だったんですね」

「俺はいつだって社長の為に走って、なにかあったら社長の為に盾になる、そう決めたんだ。だからもしお前が社長に害をなそうとしているんだったら見過ごせない。そう思って警戒してる部分もあった、すまなかったな。お前のことも疑って悪かったな。じゃあ置いて戻るか」

牛島と打ち解けた、人見は小笠原の本当の人柄を知っていきました。

牛島や小笠原に嘘をついていることに罪悪感が揺れます。

「あのやっぱりさすがに一言だけメッセージを書いておこうかと」

「じゃあこれちゃんと閉めて出ろよ」

牛島は人見に鍵を渡して先に部屋を出ました。

その頃、里井は堂前の参りをしていました。

「ごめん堂前、約束を果たせなかったよ」

「俺はここにもういられない。困ってる社員を助けてあげてほしい」

そこへ人見が来ました。

「人見君」

「お疲れ様です」

「え?とってくる?」

「はい。さとさんを助ける為に、おがさんの家に隠し持ってる人に見られたらやばいものを手に入れて、交渉のカードにしようって人事部で作戦してたんすよ」

「それで社長を脅そうとしたってこと?」

「はい」

「まぁでも、なにも取って来れませんでした」

「そりゃそうだ。普通に窃盗はダメだからね」

「おがさんって、会社のことが大好きで仲間思いの良い人なんです」

「でもそれが昔の感覚のまま、自分と同質の人しか向いてない。それは経営者としては許される事ではないよ。この時代、いろんな事情を抱えてる社員がいる」

「そうなんすよね。だから嫌われてるんすね」

「若手社員の離職も多いと聞いたよ」

「そうなんすよ。それも結構やばくて。だから里さん戻ってくれませんか」

「いや僕はもう」

「困ってる人がいるんすよ。助けてあげてほしいです」

「僕と彼らが話したところで、なにも変わらないよ」

「おがさんのことです」

「僕が助けるの?若手社員じゃなくて?」

「おがさんも困ってる社員の一人なんすよ。おがさんもこのままじゃダメだって分かってるんですけど、考え変わらない的な。俺じゃどうしていいか分からないんす」

「よくそれをクビを宣告された僕に頼むね」

「お願いします」

「相変わらずめちゃくちゃだ。」

「さーせん」

「でもやっぱり面白いね」

「里さん、一緒に会社変えましょう。まだまだこれからっすよ」

里井は亡き堂前と人見を重ねます。

そこで、里井と小笠原をもう一度、話合わせる事にした、人見、

「社長、もう一度、説明会を行ってください」

「お前は自宅待機だと言ったはずだ」

「しつこいぞ、それに何故、お前がここにいるんだ。取締役会議まで待機しろと伝えたはずだ」

「いつまでこんなことをするおつもりですか。社長のその態度で、多くの社員が日の出鉛筆に失望しています。若手を中心に、辞めようとしています。社員は家族だと仰っていましたよね。その家族をこんな形で失っていいんですか?」

「そんな愛社精神がない奴は家族でもなんでもない」

「何故それをあなたが決めるんですか?」

「私が一番この会社を愛してるし、この会社は私の全てなんだ。人生なんだよ!」

「あなたにとって日の出鉛筆は人生で全てを捧げてきたものかもしれません。それは疑いません。ですが、日の鉛筆はあなただけのものじゃない。そこで働いている、そこに関わってくれている多くの人々のものです。あなたに比べたら小さな愛情かもしれません。でも、愛があるから理想があるから失望するんです。私は、辞めようとしている社員に愛社精神がないとは思えません。だから彼らともう一度向き合っていただきたいのです」

「私は向き合ってきたよ。だから言いたい事も言ったし本音でぶつかり合ってきた。なにが説明会だ。そんなものがなくったって、私は彼らを信頼していたし、彼らも私を信頼していた。そんな日の出鉛筆の精神を、あの時の結束を底力を大切にしたいそれだけなんだ。」

「社長、私あなたの古い価値観や感覚に賛成できません。しかし、あなたを尊敬してます。今の日の出鉛筆があるのは間違いなく、あなたの功績です。それは単に規模を大きくしたという話ではありません。会社の良いところにも悪いところにも向き合って、世の中の動静を見て、鉛筆専業メーカーから総合文具メーカー会社を変えていった功績です。それは社長と当時、第一営業部の皆さんが一緒に始めた事です。もしも日の出鉛筆らしさというものがあるのなら時代に合わせて変えていく姿勢こそが日の出鉛筆の精神なのかと。だから社長、今の家族と向き合って下さい」

「分かってたよ。俺が思う日の出鉛筆なんてもうないってこと。時代が変わり常識が変わり昔の仲間もいなくなって。だけどこれが間違ってると認めたら俺達が、あいつらが全部間違っていたことになってしまう。それは出来ない」

「なるんですか?あの時はあの時で残ってるじゃないですか」

「なぜこれを?」

人見がスマホを見せました。

そこには、小笠原とかつて一緒に働いた社員達の写真がありました。

小笠原の家宝は過去に切磋琢磨してきた社員達とのポートレート写真でした。

「今の社員と向き合ってもあなたの日の出鉛筆はなくなりません」

「里井、社員を集めてくれ。ノーサイドだ」

小笠原は、人見と里井の必死の熱意が伝わり、もう一度、社内説明会の場に立ちました。

「日の出鉛筆代表取締役社長、小笠原治です。この度は私の発言のせいで大変不快な思いをさせ、業務上も様々な悪影響を及ぼしてしまったこと心からお詫び申し上げます。ついて私小笠原治は取締役社長の座を退くことにいたしました。日の出鉛筆は変わらなければなりません。ですがそれを先頭に立って変えていくのにふさわしい人物は私ではありません。今回のことで私は様々な事に気付きました。考えを改めようと意識もしました。しかしそれでも今の時代今の価値観に対応しきれてない自分を感じてしまいます。なので私は身を引くことに致します。日の鉛筆の一員としての最後の瞬間に気付かせていただいた事、感謝しています。社長として最後の責任を果たすために後継となる人物を指名させていただきます。ご紹介いたします」

小笠原は時代の変化と共に、日の出鉛筆の社長を退くことを発表しました。

自分の代わりに、人見廉を社長に指名したのです。

「初めまして。日の出鉛筆の社長に就任致しました。人を見ると書いて人見廉です」

日の出鉛筆全社員に動揺と驚きが広がりました。

人事の人見10話(最終回前編)感想・みどころ

小笠原社長は、あれだけ人事部部長の平田が説得しても、やはり前時代的感覚のままでした。

ところが、彼にはとても面倒見が良く、人情味がある一面が明るみになりましたね。

人見は、相手の痛みを自分のことのように理解して、解決策を見つけ出せて爽快でした。

彼の温厚で、困っている人を見過ごせない優しさは、里井からすると、かつて人見のような令和的な考えを持った社員、堂前を彷彿させて切なかったです。

個人的に思ったのですが、人見廉を演じられるのは、やはり、松田元太さん以外居ないと思いました。

彼自身も現場では、人見がそのまま現実にいるかのような、温厚で明朗快活な人柄が知られています。

自然体に人見廉になっていく表現者としての松田さんにどんどんドラマに出演してほしいと思いました。

なんとラストでは、人見が小笠原から一目置かれる存在となり、社長に就任するとは…!

日の出鉛筆の新社長、人見の困っている人を見過ごせない社内環境改善に期待したい10話でした。

 

 

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